26/09/2012

Waltzing Mathilda #1
















 いつものように飲んだくれては道に迷う毎日だ。日銭くらいしかもらえない仕事にもうんざりだが、それ以上に何かに打ち込む情熱も気力も、とうの昔に失っていた。安い酒と一日に一箱だけの煙草が彼の生活の中で唯一、現実とを繋ぐ接点だった。
 その店に通うようになってもうどのくらい経ったのだろうか、もう誰も彼の事など気にする人もいなかった。おぼつかない足取りは到底まともには見えなかったし、口を開けば昔の話か悪態だけだ。





















「俺より最悪なヤツなんかいねぇよ。」

 言葉を交わす人は必ず聞かされるセリフだ。たまに親身になって聞いてあげる人もいるのだが、最後には溜息だけがその場の空気を濁すだけだった。結局はいつも一人、カウンターの隅にもたれかかって煙草の残りの数を数えながら、ショットグラスを舐めるように飲むのが彼のスタイルになってしまった。
 何が辛いというわけでもない。ただ、夢か現実か区別がつなかいような単調な毎日を繰り返すだけだ。何も変わらない。―それがなんだっていうんだ―と、彼は一人ごちた。




















 平日の夜は客が引けるのも早い。ガランとした店内は、電車の時間を気にする女となんとか今夜キメたいと曖昧な言葉を探る男の駆け引きが続いていた。
 彼はいつものように満杯になった灰皿の下に少し足りない勘定を挟めて、フラフラと店を出た。




to be continued...

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